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決して忘れてはいけない日。
続きに山ジュニのSSです。
去年の夏に「わぁぁぁぁ!」となったけど日にち過ぎてしまったのでネタメモだけして保留していたもので、今年も「わぁぁぁぁ!」ってなったので、帰省する電車内で勢いで書き上げたものです。
気持ち先走りで書いてますので、支離滅裂かと思います。もしかしたらこういうの嫌いな方いるかと思います。
内容的には「8月15日」というキーワードで察していただけると助かります。
なお、続きにいれてますので、閲覧は何を読んでも平気という方のみでお願いします。
【8月15日】
ふと見上げた空は泣きたくなるほど高く澄んでいた。
『あの日』と同じような空に、そのままの状態で山陽は動けなくなる。
周囲の音が遠ざかり、微かに忘れようにも忘れられない音声を聞いた気がした。
時が止まる。
すべてが終わったと思った日は、実は始まりの日だったのだと知った。
終焉への始まりの日。
そして。
今思えば。
―――未来へ命を繋ぐ、始まりの日。
「山陽さん? 何かあったんですか? 兄貴に怒られたとか……」
心配げな東海道本線の言葉に、山陽は小さく、けれど心からの笑みを浮かべた。
普段、冷たく見えるほどぶっきらぼうな彼が、本当はとても優しくて心から山陽のことを想ってくれているとわかる。けれど、あまり態度に出さないから、今の心配げな表情は山陽にとってとても嬉しいものだった。
『今日』という日に笑みを浮かべさせるほどに。
「ん~……今日はそれはない、かな。ありがと、ジュニア。心配してくれて」
小さく笑みを浮かべると、東海道の眉がきゅっと中央に寄った。
「………………なんでもないってなら、いいんです。ただ、アンタの様子がいつもと違ったから……」
視線を落として言い難そうに言葉を零す東海道に、本当に彼に想われているのだと思った。
心に暖かいものが満ちる。同時に痛みも。
少しだけ。少しだけなら、甘えることを許してもらえるかもしれない。
山陽は僅かな躊躇いのあと、東海道へと手を伸ばした。
彼を後ろから抱き締める。
「さ、山陽さん!?」
驚いた声が返って来たが、暴れられることも振り払われることもなかった。
「ごめん、ジュニア。ちょっとだけでいいから、さ……」
東海道の肩に額をつけて呟く。
小さく息を吐く音が聞こえ、彼に回した山陽の腕に、そっとぬくもりが触れた。
暖かいぬくもり。
当然にあるものが、当然ではなかった時があった。
今、何よりも大切なぬくもりを強く抱き締める。
思い出すのは、遠くて近い記憶。
忘れられることはなく、いつでも頭の片隅にあった。
ふとした瞬簡に思い出す。とくに、今日は。
生き残った。
生かされた命。生き延びた命。
人もそうではないものも、愛する者を守るために、懸命だった。
大切なものを守るために、散っていった幾多の命。
守られた命だからこそ、幸せにならなければいけないと思えたのは、ずいぶんあとになってからだった。
走ること。
幸せであること。
笑っていること。
―――笑っていて。幸せにどうか―――
それが散っていったものたちの望みだと気づいたから。知っているから。
自分以外の他人を、心より大切だと愛しいと思うようになった。
強く東海道を抱き締める。
優しいぬくもりが傍にある。触れることが出来る。ともにいることが出来る。
それがどれほどの奇跡か。
そんな小さな幸せを守るために作られた命は、失われて。
けれど、空を駆け抜けた希望は、地上に降りて繋ぐものとなった。
守ってくれた彼らは。彼らの命は無駄ではなかったと、守られた自分たちが証明しないといけないのだ。
それは、きっと。
幸せで。笑って。
生きていることだと、思った。
「ジュニア……」
「はい」
小さく名を呼ぶ。
すぐに返る応え。山陽の腕に触れている彼の手が、そっと労わるように動いた。
優しく撫でるぬくもりに、彼の気遣いを感じる。
こうしてこんなにも大切な存在が出来るなんて思わなかった。瞬間瞬間を生きることに精一杯で、周りなど何も見えてなどいなかった。
「……山陽さん」
労わりを込めて呼ばれる今の自分の名前に、山陽は東海道を抱く腕に力を込める。
走り続けることの出来る奇跡の中で、自分に人の幸せを、笑顔を、未来を運ぶ役目が出来るようになるなど。あの時は思うことすら出来ないでいた。
「ジュニア……」
「はい」
「…………ありがと」
「………………はい」
明らかに様子がおかしいと思っているだろうに、東海道は何も聞かないでただ頷いてくれた。
たぶん、彼にもわかっているのだろう。だから、何も言わないで山陽の好きにさせてくれているのだ。
幸せだよ、と心の中で囁く。
もう二度と悲しい運命はいらない。
大切な人と会える笑顔。大切な人のいる場所に戻れる笑顔。希望、楽しみ、安らぎ。
走り続ける先に、幸せと笑える場所が在ることを願わずにはいられない。
どうか、この幸せが、平和が、永久に続きますよう。
自身の想いに翻弄されるように、強く東海道を抱き締めた。
そっと東海道が山陽の腕を撫でる。
ただただ夢のように優しい幸せを感じて、山陽はそっと目を閉じた。